お葬式で大きな存在感を放つ、故人の「遺影」は、お葬式が終わったあとも何か特別な飾り方をしなければならないのでは…と思う人も多いことでしょう。
しかし、遺影には決まった飾り方はありません。ほぼ自由に飾っていいものなのです。
ただし、仏壇の上や中に飾るのはどうなのでしょうか。細かいことですが、仏様やご先祖に失礼があってはいけませんよね。
今回は遺影の飾り方について、仏壇との関係性を中心に、お話していきます。
遺影とは
遺影とは、故人の生前の姿を写した写真のことです。お葬式や法事などでは必ずあるものという気がしますが、実は遺影は、どんなに大切な人が写っているものであっても「故人の魂が宿る」などの宗教的な意味を持たない、「ただの写真」とされています(故人の魂が宿るものは「位牌」です)。あくまで家族や親族が故人を偲ぶためのものであり、仏壇や仏具、位牌などとは異なる存在です。
お葬式での遺影
お葬式では、大きな遺影が祭壇に飾られているイメージが強いでしょう。しかし前述したように、遺影は必ずなければいけないものではありません。写真がない時代には、戒名を記した札が位牌とともに並べられている、という光景が当然だったようです。
現在は、遺族や参列者が故人を偲んだり、お別れの声掛けをしたりするのに遺影は必要不可欠のものになっており、生前の姿を写したものはやはりあってほしいと思うのが、遺族の心情でもあるでしょう。
お葬式のあとの遺影
お葬式が終わると、たいていの場合自宅に後飾り祭壇というものを設け、遺影もそこに置かれることが多くなっています。四十九日までは、お葬式に参列できなかった弔問客のためにもそのまま飾っておきます。
四十九日のあとの遺影
四十九日が明けると、後飾り祭壇は片付けます。このとき、遺影は場所を変えて飾ったままにしておいてもかまいませんし、処分しても問題ありません。仏教においては、遺影は位牌と違い、故人の魂が宿っているものとは考えられていないからです。
そのまま飾る場合の場所については後述します。処分する際には、いくら「魂の宿っていない、ただの写真」とはいっても、通常の可燃ゴミとして扱うことに抵抗がある人も多いでしょう。そのような場合は、葬儀社やお寺・神社でお焚き上げしてもらうという方法を取るのが最善です。また、遺影を処分するならその旨を必ず親族に伝え、了承を得ることも大事です。
遺影と仏壇の関係
四十九日が明けたあとも遺影を残すのであれば、仏壇のある部屋に飾ろうと考えることが多いでしょう。しかし、仏壇のそばに遺影を飾る際にはいくつかマナーやタブーがあります。
仏壇の真上に遺影を飾るのは避ける
仏壇は、ご先祖を祀っているものだと多くの人に思われていますが、実は本当に祀っているのは御本尊(その宗派の崇拝対象である仏様)です。そのため、仏壇の最上段には御本尊の像や掛け軸が祀られています。
仏壇の真上に遺影を飾ると、御本尊の在処を見下ろすことになってしまうため、遺影の場所としてはよくないとされているのです。
仏壇の中も避ける
仏壇の中は、極楽浄土の世界を表しているといわれています。仏壇の中に置く位牌には、故人の戒名しか彫られていないのはそのためであり、仏壇の中には生前のものを置いてはいけないのです。したがって、故人の生前の姿である遺影を飾るのも作法に反しているといわれています。
仏壇の真正面も避ける
では仏壇の前は、というとこれも避けるべきです。御本尊にお尻を向けてしまい失礼である、と考えられているからです。仏壇の前であっても、真正面は避けて少し角度をつけて飾れば、問題ありません。
遺影を飾る場所
向きに決まりはない
遺影を飾る際の向きについては、特に決まりはありません。
ただ、仏壇に関しては「南面北座説(なんめんほくざせつ)」=「お釈迦様が説法の際に南向きに座っていた」という言い伝えから、南向きがよいとする説、また「西方浄土説(さいほうじょうどせつ)」=「極楽浄土は西にある」とされていることから、仏壇を東に向けることで極楽浄土に向かって拝めるため、東向きがよいとする説があります。
遺影もこれにならい、仏壇と同じように南向き・東向きに飾るのがよいといわれることもあります。
長押(なげし)に飾る
最近の住宅ではあまり見かけなくなりましたが、一昔前までは仏間や床の間の長押(なげし)にフックを取り付けて、壁に掛けて遺影を飾るのが一般的でした。部屋の上部に遺影を飾ることにより、「天国から故人が見守ってくれている」と思えるからです。
近年は、壁に後付けできる「壁掛け長押」が販売されています。洋室でも合うデザインのものを選んで、遺影を飾るのもよい方法ですね。
仏壇の近くに飾る
「仏壇の真上・中・前」に遺影を飾るのは避ける、というお話をしましたが、それでもやはり「仏壇の近く」に飾りたいという気持ちがある人は多いでしょう。それならば台や小机を仏壇のそばに設けて、そこに遺影を飾るのがよいでしょう。前述したように、御本尊に背を向けないような位置に置けば問題ありません。
水回り・玄関・直射日光が当たる場所は避ける
反対に、遺影を飾るのに適していない場所は明確にあります。
まずは台所や洗面所・トイレなどの水回りです。湿気が多く、写真が傷みやすいためです。特に台所は湿気だけでなく火気もあるので、大切な写真を失いかねません。
また、玄関は家族以外の人の出入りも多い場所であり、紛失の恐れやホコリがかかりやすい・プライバシーの配慮に欠けるという難点が考えられます。
居室の中であっても、直射日光が当たる場所は避けるべきです。日光を浴びると色があせてしまうのが速く、やはり傷みやすいからです。
これらの場所は遺影の置き場所として適していないため、避けるようにしましょう。
複数の遺影を飾るときは
仏教の世界では、右が上座とされているため、複数人の遺影を横に並べて飾る際には、亡くなった順で右から左へ配置しましょう。夫婦の場合は夫が右です。
他にもこんなところに
遺影は飾りやすいようリサイズする
お葬式で飾った遺影はサイズが大きく、住宅事情によっては持て余す恐れがあります。そういうときにはリサイズして、部屋に合う大きさにしてはいかがでしょうか。一般的な写真サイズであればスタンドの額縁に入れて手軽にどこにでも置けますし、さらに小さくすれば常に持ち歩くこともできるでしょう。
スタンドにしていつも家族の目に入るところに
お葬式で見る遺影は、黒い額縁に入っていて同じく黒いリボンがかかっている、というイメージがありますが、家に飾るときにはリボンを取り、額縁も華やかなものに替えてしまってももちろんかまいません。そうすれば、洋室の多い現代の住宅にもよく馴染むでしょう。
壁に掛けるだけではなく、スタンド式の額縁を使って、リビングや寝室のサイドボードなどいつも家族の目に入るところに飾って故人を偲ぶことが、本来の遺影の役割といえるかもしれません。
デジタルデータにする
遺影をデジタルデータに変換すると、スマホやタブレットなどの端末からいつでも見ることができます。デジタルフォトフレームに入れて、生前の元気な頃家族と一緒に撮った写真などとともに、いろいろな写真をスライドショーで表示させるようにするのもよいですね。
まとめ
遺影は本来、位牌や仏壇とは違って、仏教の世界では大きな意味を持たないものです。したがって、どんなものをどう飾ろうと問題はないのです。お葬式の前の時間がない状態で急いで選んだ遺影よりも、もっと故人らしさが表れている写真を家に飾りたい…ということであれば、それももちろんかまいません。重要なことは、遺影によって家族が故人を偲べることだからです。
とはいえ、遺影と仏壇との関係性を考えると、ある程度の作法やマナーは存在します。タブーとされていることは避け、それでいて自由に故人を偲べるような遺影の置き方を知っておいて損はないでしょう。